「味覚」は、舌で味を感じる感覚です。あまさ、すっぱさ、にがさ、しょっぱさ、うまみを感じることができます。
味覚にまつわる二つの取り組みを紹介します。(小勝千尋)
言葉を味わい、重みを考える
もしも言葉が食べられたら、どんな味がするでしょうか。
「ありがとう」「ごめんね」など、さまざまな言葉を表現したお菓子が入った絵本『たべることば』を、出版社のフレーベル館が作りました。
お菓子の絵本
「だいすき」はあまずっぱいよ
絵の横にある言葉が、お菓子でできています。教育学者や言語学者、パティシエなどが協力しました。
7月、親子による試食会がありました。
まず食べたのは「すき」。さっくりとしたパイに、ピンク色の砂糖がかけられています。「だいすき」は「すき」よりもあまずっぱく、カラフルです。
続いて「きらい」。食べた瞬間に、顔をしかめる人もいました。野菜パウダーが入ったクッキーで、強い苦みがあります。
「バカ」は、するどい辛さが特徴のせんべい。ひりひりとした刺激が口の中に残り続けます。
「キモい」は薬草をにつめたような味のする、暗い色の練りようかん。
試食している人たちからは「おいしくない」「うぇ~」という声が上がりました。
次に食べたのが「ごめんね」です。ブルーのラムネで、すっと口の中でとけます。「いやな味を洗い流してくれるみたい」
最後に食べたのは「ありがとう」。虹色のゼリーです。ライチ風味のあまずっぱい味に、笑顔を見せる人もいました。
参加した子どもたちは「その言葉が相手をどんな気持ちにするのか想像できました」
「いやな言葉を使った人がいたら、その言葉のお菓子を食べるといいと思う」と話しました。
フレーベル館の木村美幸さんは、「SNSなどを通して、傷つける言葉、いじめの言葉が簡単に使われてしまう時代。
言葉を味わって、体験することでその重みや持つ意味を考えてほしいです」と話します。
絵本の発売は未定ですが、より多くの人に言葉を食べることを体験してもらうため、商品化を計画中だといいます。
特設サイト(https://www.froebel-kan.co.jp/tastefulwords/)では、一部のお菓子のレシピを紹介しています。
音を聞きながら食べ比べ
食べながら聞く音や見るものによって、味は変わるのでしょうか。
日本科学未来館(東京都江東区)で7月、来館者約700人が参加して、2種類の音を聞きながらチョコレートを食べて、感じた味を答える実験が行われました。
食感・味が変化
東京大学講師の鳴海拓志さんと、コロンビアのロス・アンデス大学助教のフェリペ・レイノーソ・カルバリョさんらによる、味覚と聴覚は、たがいに影響し合うのかという研究です。
実験はまず、ベルギーで行われました。
なめらかなフルートの曲を聞きながらチョコレートを食べると、あまく、なめらかな食感に。
バイオリンのとぎれた音だと、苦く、あらい食感に感じるという結果が出ました。
さわやかで心地良い曲を聞きながら食べると、あまみを感じ、重い雰囲気のオペラの曲だと、苦みを感じることもわかりました。
しかし、ベルギーと日本では、普段食べるものや生活がちがいます。
「そこで、日本や韓国、アメリカ、ヨーロッパなどさまざまな国や地域で実験を進めています」と、鳴海さん。
味覚と聴覚の関係が明らかになると、どんなことに役立つのでしょう。
「入院中などに食べる、味付けを制限した食事をおいしく感じたり、よりおいしい食事ができたりします。
レストランと協力して、エンターテインメントとして食事を楽しめるようにもなります」
嗅覚や視覚も
味覚に影響を与えている感覚は、ほかにもあります。例えば嗅覚。
みなさんも、苦手な食べ物を、味がしないように、鼻をつまんで食べたという経験があるかもしれません。
「かき氷のシロップは実はみんな同じ味。香りづけに使う香料と色がちがうだけなんですよ。私たちはイメージを食べているのかもしれません」
鳴海さんは視覚と味覚に関する研究もしています。
天ぷらを食べるときに、天ぷら屋の映像をプロジェクションマッピングで見せると、香りを強く感じ、温かく、味も濃く感じるという結果が出たのだそうです。
「新しい『おいしい』を目指して研究を進めています」と鳴海さん。
今回の実験結果は、今後くわしく分析し、発表する予定です。
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