郷土愛に映画「翔んで埼玉」が火をつけた
「埼玉」が盛り上がっています。きっかけは、埼玉県が「ダサイタマ」などといじられるコメディー映画「翔んで埼玉」の大ヒットです。埼玉県民の郷土愛に火がつき、撮影地には観光客が押し寄せています。いったい、なぜ? 監督に聞きました。(猪野元健)
「底辺」を徹底的に
映画「翔んで埼玉」は「パタリロ!」で知られる漫画家、魔夜峰央さんの1980年代に発表された漫画が原作です。「都会度の高い」東京都民から虐げられる埼玉県民を解放しようと、主人公が奮闘するストーリーです。
「埼玉県民には、そこらへんの草でも食わせておけ!」。埼玉を「底辺」に描く世界観を徹底し、こんな過激なセリフが次々に飛び出します。埼玉から東京に行くには通行手形が必要で、不法侵入者は強制送還。高層ビルが立ち並ぶ東京に対し、埼玉・春日部の人々は竪穴式住居で暮らしています。
2月22日に公開されてから3月24日までの約1カ月で興行収入25億円を超え、観客動員は約193万人に上ります。宣伝担当者は「埼玉でダントツに見られています」。約26%が埼玉県内での記録にあたるそうです。
歌やロケ地に反響
反響は広がっています。埼玉を自虐する主題歌「埼玉県のうた」は、23日に開幕した第91回選抜高校野球大会で埼玉代表・春日部共栄高校の応援歌に。劇中に登場する地下50メートルの防災施設「首都圏外郭放水路」(春日部市)の公開も23日に始まり、予約できる1カ月先まで、土日はほぼ埋まっています。担当者は「映画で知名度が上がった」と話します。
難解な県民の思いを刺激
監督の武内英樹さんに、映画に込めた思いを聞きました。
――映画は大ヒット、特に埼玉で人気です。
埼玉の人には、県外の人にわかりやすく自慢できる観光地や名産品は少ない。でも、都心にすぐ出られるし、物価も安いし、自然もある。ショッピングモールも多い。自虐的になるけれど、こうした環境の方が実は東京より住みやすいと考えている。そういう思いをうまく刺激できたのではないでしょうか。
――映画化で心がけたことは。
ものすごい挑戦でした。影響が怖かった。でも、苦情はびっくりするほどきていません。映画にするため、埼玉を徹底的に取材しました。地元のラジオ放送局や新聞社、県庁、大学生や高齢者にも話を聞きました。助監督やカメラマンなどスタッフもできるだけ埼玉の人にして、どこまでやっていいのか尋ねました。
埼玉以外の人が「こんなにやっちゃって大丈夫なの」と心配するけれど、埼玉の人はなぜかみんな「もっとディスってほしい」という。その県民性を理解するのが、すごく難しかったですね。
――10代に伝えたいことは。
最近は地方に対する考え方が変わってきています。本社を東京から埼玉に移す企業があり、最近発表された住みたい街のランキングでも、大宮や浦和が上位に入った。10代のみなさんの周りには自然があった方がいいと思う。都会にばかりあこがれる必要はありません。故郷を見つめ直し、その良さを理解して、違う人の故郷も認められる。映画が自分の足元を見つめ直すきっかけになればいいですね。
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