ヤングケアラー「存在を知って」
「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたちがいます。家族の介護(ケア)やサポートをしていて、その役割が家のお手伝いという範囲をこえている子どものことをいいます。
勉強ややりたいことが十分にできないこともあり、周りに相談できず悩みを抱えがちなヤングケアラーを支援しようという取り組みが進んでいます。(畑山敦子、前田基行)
ヤングケアラーはイギリスで生まれた言葉で、ケアラーとは介護する人という意味です。イギリスでは25年以上前から目が向けられ、支援が行われています。
日本でも、国の2017年の調査によると、家族の介護をしたことがある15~29歳の人は約21万人。小中学生の中にもヤングケアラーがいますが、実態はまだ十分にわかっていません。
介護する人を支援する「日本ケアラー連盟」では、大人がするようなケアをしている18歳未満の子どものことを「ヤングケアラー」と定義しています。
去年夏からは、当事者だった人たちが語り合い、経験を社会に発信することを目指す「スピーカーズバンク」という取り組みを始めています。
経験を語り合い、共有して発信
国際医療福祉大学4年の高橋唯さん(22歳)はスピーカーズバンクに参加している一人です。
高橋さんの父親は、仕事の事故で片腕を失いました。母親は高校時代の交通事故で脳に障がいが残り、家事や外出など日常生活がしにくくなりました。 高橋さんが生まれた時には両親は障がいがあり、おさないころから家族に気を配ってきました。
「それが当たり前の生活でしたし、両親は自分の身の回りのことはできたので、ケアで大変だったという思いをしたことはありません」
ただ、中学生になると、突然涙があふれたり、過呼吸になったりするようになりました。中学生の時の作文には「母に対していらだつことが増えていった」とつづった一方、「私がもっと母の面倒をみていれば……」とさいなまれることもありました。
自分でもとらえきれない気持ちでした。 同じ境遇の人たちと話したいと思い、大学3年の時にスピーカーズバンクの活動に参加しました。そこで初めて自分がヤングケアラーだったことに気づいたといいます。
経験を語り合い、共有していくことで、気持ちを整理して話せるようになってきました。高橋さんは自らの体験を語ることで、「ヤングケアラーの存在を多くの人に知ってもらい、周りの理解が進み、大変な思いをする子どもが減ってほしい」と話しています。
助け求めづらい当事者
ヤングケアラーの支援に先進的なイギリスや、日本の状況にくわしい成蹊大学准教授の渋谷智子さんは「家族のケアの中心的な役割をしていることに気づかず、助けを求めることが難しい当事者は多い」と言います。
「食事やトイレなど身の回りの介助だけでなく、病院のつきそいや家事など、家族のために子どもがになうケアは幅広いです」
渋谷さんはイギリスの学校で使われている劇を日本版にアレンジし、病気の母親と暮らす女の子の一日を劇で紹介しています。女の子は学校に通いながら母の代わりに食事作りや弟の世話もし、多くのものを背負っています。
渋谷さんは大学生とともに先生向けの研修などで演じ、ヤングケアラーをとりまく状況を知ってもらおうとしています。
「家族を支えている子どもたちは、その年でよく頑張っていると思います。かわいそう、大変ということだけではありません。ヤングケアラーが必要なサポートを受けたり、心が軽くなったりできるよう、多くの人に存在を知ってもらいたいです。皆さんの周りにも、ヤングケアラーの子はいるかもしれません」
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