音楽はお好き?「ロマはすっくと立っている……」
ユーラシア大陸(ヨーロッパとアジア全域)などを移動しながら、1か所に住み続けないで生活している少数民族を「ロマ」と呼んでいます。以前は別の名称で呼ばれていましたが、彼らがそれを拒否してうったえたため、現在は「人間」という意味の「ロマ」になりました。
もう一つ、自分たちの祖先が生まれた場所がローマだからという説もあるのですが、実際にはよくわかりません。外見からはインド辺りではないかと推測されています。金属片や小さな鏡をぬい付けた衣装にも、そんな感じが現れています。
中世にインドからヨーロッパに向けて移動してきたとされているため、その文化は長い距離を移動している間に通過した国々の,さまざまな影響を受けたのでしょう。東洋やイスラム文化のにおいもします。
その音楽も一度聞いたら忘れられない特徴があり、ヨーロッパのクラシック音楽にもたくさん取り入れられています。
特徴はまず、金属の打楽器(シンバル、トライアングル、鈴、タンバリン――枠に小さな金属が付いている)を好んで使っていることです。次に、増2度(半音三つ分)音程が1オクターブに2回出てくる音階を使っていること。さらに、バイオリンや歌の節回しに細かいコブシ(ゆれ動き)を付けること――などが挙げられます。
彼らは昔は馬車、今は車で移動します。祭りや農繁期の町や村に着くと、農作業を手伝い、女性は歌と踊り、男性はバイオリンやギターでにぎわせます。年を取った女性は占いで収入を得ます。生活がとても厳しいので、早く老いがやってくるのです。その歌や踊りは、主に「チャルダーシュ」と呼ばれています。テンポが遅い部分(ラッサン、ラッスー)では、自分たちの悲しい運命をうったえ、速い部分(フリスカ、フリッス)ではそれをふり切るように興奮の極みにさそいます。
ロマン主義の時代は「国民主義」とも呼ばれ、その国独特の音楽を探ろうとしました。もう探りつくしてしまったドイツなどの作曲家はここで新たにロマの音楽に注目し、数多くのチャルダーシュ風の「ラプソディー」という曲を書いたのです。ロマに感謝しなくては!
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青島広志(あおしま・ひろし)。1955年、東京生まれ。東京芸術大学、同大学院修士課程を首席で卒業、修了。「火の鳥」「11ぴきのネコ」などこれまでに200曲あまりを作曲。著書に『クラシックの時間ですよ!』など。東京芸術大学講師、洗足学園音楽大学客員教授。テレビ出演多数。イラストも筆者
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