お姫さま お菓子物語
ニノン・ド・ランクロ Ninon de Lenclos(1620~1705年)
1620年、ニノン・ド・ランクロ(本名はアンヌ・ド・ランクロ)は、フランス中西部、トゥーレーヌ地方の貴族のむすめとして生まれました。ロワール川の中流域にあるこの地方は、中世のころから王さまや貴族たちが競ってお城を建て、多くの芸術家が集まるようなはなやかな場所でした。そのような環境の中で、ニノンは貴族のお姫さまとして、かしこく、美しいむすめに育っていきました。
しかし、ニノンが15歳のとき、両親が亡くなります。天涯孤独の身となったニノンは、自分の力だけで生きていかねばならなくなりました。生まれながらの美しい容姿、優雅なふるまい、高い教養、リュートなどの楽器もひきこなしたニノンは、経済的な後ろだてを得ます。
暮らしぶりは質素でしたが、彼女の魅力にひかれてサロンには、多くの人が集まりました。劇作家のモリエールや、小説家のボルテール、詩人のラ・フォンテーヌなどの芸術家をはじめ、貴族のコンデ公もニノンのファンだったといわれます。
フランスは、ルイ14世が治める時代。またたく間に貴族の男性たちをとりこにしたニノンは、うもれていた才能ある人を見つけ出しては、ベルサイユ宮殿へ出入りできるようにしました。
彼女の新しいものを生み出す企画力や行動力は、フランスの活性化のために大いに役立ちました。芸術家の価値を高め、フランスが「文化の国」としての地位を確立する上で大貢献をした一人といえるでしょう。
80歳近くになっても老けこまなかったというニノン。結婚という形にしばられず、自由に生きたニノンは、85歳で永遠のねむりにつきました。
☆ニノンのリンゴの タルトレット
「タルト」というのは、器の形をしたクッキー地に、クリームや果物などを盛りつけたお菓子のことです。タルト菓子には大小ありますが、大きいものを「タルト」、小型のものを「タルトレット」と呼びます。
ニノン・ド・ランクロのサロンでは、新鮮な果物を使ったお菓子がたびたびふるまわれました。このリンゴのタルトレットも、果物が豊富にとれる地方で生まれたといわれるニノンらしいお菓子といえるでしょう。
リンゴは、栄養価が高く、血液をサラサラにしてくれたり、老化を防いでくれたり、健康や美容によい果物です。ヨーロッパでも16世紀ごろには、リンゴは体によいと知られていました。ベルサイユ宮殿という豪華さや、ぜいたくになれっこになっていた貴族たちには、はでさはありませんが、健康的で、素朴なリンゴのタルトレットは、魅力的だったのです。
秋、赤く実った、みずみずしいリンゴを使ったタルトは、心にやすらぎを与えてくれるものとして、フランスを代表するお菓子になりました。
〈材 料〉
(7センチタルトレット8個分)
市販のタルトカップ(生地)
……8個
A
リンゴ(紅玉)……2個
グラニュー糖……100グラム
水……200グラム
B
卵黄……2個分
グラニュー糖……50グラム
薄力粉……25グラム
牛乳……250グラム
バニラビーンズ……2センチ
(ない場合は
バニラエッセンス……少々)
C
リンゴジャム……大さじ3
ホイップクリーム……適量
ピスタチオ……適量
〈作り方〉
①リンゴは皮をむき、くし形に12等分に切る。
②なべにAの材料のグラニュー糖、水を入れて、ふっとうさせ、シロップを作る。
③②にリンゴを入れ、弱火で15分ほど煮る。
④③をボウルなどに移し、シロップごと冷やす。
⑤なべにBの材料の牛乳を入れ、種をしごきだしたバニラビーンズを加え、火にかける。ふっとう直前で火を止める。
⑥卵黄、グラニュー糖をよくすりまぜる。その中に薄力粉を加えてよくまぜ、⑤を加える。
⑦⑥をなべにもどし、火にかける。フツフツとふっとうし、トロッとしたら火を止め、バットなどに移して、しっかり冷やす。
⑧タルトカップにリンゴジャムを少し入れ、⑦のカスタードクリームをしぼり入れ、その上に④のリンゴを置き、ホイップクリーム、ピスタチオを飾る。
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【監修】今田美奈子(いまだ・みなこ)洋菓子・食卓芸術研究家
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