『桜木建二が教える 大人にも子どもにも役立つ 2020年教育改革・キソ学力のひみつ』
子どもは生まれながらに「親離れ」の本能を持つ
中学生になったら、価値観を変え、視野を広げていくのが大切だと柳沢校長は教えてくれた。ひょっとするとそれは、親の側にも言えることなんじゃないだろうか?
「中学受験というのは、競争の激しい世界なのは確か。合格を勝ち取ることだけ考えて受験期間を過ごすようになる気持ちはわかります。
当の子どもたちはもちろんのこと、親御さんが非常にがんばっておられるのももちろん知っています。
では合格して中学生になってから、どう気持ちを切り替えるか。親御さんのほうがうまく切り替えられない例は多いようですね。
そこで私は合格者説明会で、親御さんにこう話しかけるようにしています。
これまでの道のり、本当におつかれさまでございました。子どもと密着した子育ては、これで終わりです。これからは子離れをしてください。
子どもには本来、親離れの本能があります。が、生物学的に見て、親には子離れの本能が備わっていません。
自然界での生物は、次の世代ができると親世代は入れ替わりに死んでしまいますから、子離れの機能などいらないのです。
人間だけは、子どもが成長したあとも親世代が数十年も生きることになっていますから、意識的に子離れをしなければいけなくなります」
「話を聞く」ことが子どもの読解力を養う
中学受験というハードルは、親子が一体になって挑まなければなかなか越えられない。
それを首尾よく終えたとしたら、両者はそれぞれの道を歩めということか。子離れはいつごろから意識するのがいいだろうか?
「中学生になるころからでいいでしょう。そのあと親としてどう子どもと接すればいいかといえば、よき『聞き役』になるのをめざすべきですね。
先日、ある雑誌の企画に協力して、東大生へのアンケートに目を通しました。
すると、
『小さいころから親がよく話を聞いてくれた』
『勉強しろと言われたことがない』
という回答が多数を占めていました。
東大生の多くは親から小言を言われることなく、話をすれば耳を傾けてもらえる環境で育っていたのです。
話すことというのは思いのほか重要です。相手が理解できるように話をするのは、勉強における基本中の基本。わかるように話すというのがすなわち論理性ですから。
論理性があれば、読解力は自然と身につきます。読解力がつけば、教科を問わず試験の問題なんてちゃんと解けるようになります。
子どもの論理性を養うには、たくさんしゃべらせることです。人は相手がいればこそ話をするものですから、親はとことん子どもの話の聞き役になってあげるのです。
辛抱強く聞いていると、子どもは話しながら自分で論理を組み立てられるようになっていきます。
子どもは自分の身の回りのことをなんでもしゃべる。親はいつでも話をちゃんと聞いてあげる。そういう親子関係を築くことが、勉強しなさいと口やかましく言う前にまずは必要なことです。
勉強しなさい、とつい言ってしまう気持ちはわかりますが、それを言われて楽しく勉強している人を見たことがありません。
自分の経験を振り返ってみればわかりますよね。そういうことを言われて、やる気が失せたことがきっとあるはずです。
自分の子ども時代を思い出しながら子育てすると、いろんなヒントが得られるものですよ」
柳沢幸雄 1947年4月14日生まれ。開成中学校・高等学校校長。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の第一人者。開成中高卒業後、東京大学(工学部)、同大学院で学ぶ。民間企業で働いた後、ハーバード大学や東京大学などで環境分野の研究職に就く。2011年から現職。
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「ドラゴン桜2」 作者は、漫画家・三田紀房さん。中堅校に成長したが、再び落ちぶれつつある龍山高校が舞台。弁護士・桜木建二が生徒たちを東大に合格させるべく、熱血指導するさまを描く。教育関係者らへの取材をもとに、実用的な受験テクニックや勉強法をふんだんに紹介している。雑誌「モーニング」(講談社)や「ドラゴン桜公式メルマガ」で連載中。
ライター・山内宏泰 主な著書に、『親が知っておきたい 学びの本質の教科書 教科別編』(朝日学生新聞社)、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。
※柳沢幸雄先生のインタビューは、11月1、4、6、8、11、13日に全6回配信します。今回は第5回でした。
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