ブルー・アイランド博士の音楽はお好き?
「モルダウ」は理科と社会の勉強です
理科の授業で、川はどのように始まるか、どこで海に注ぐのかを習います。社会科では、その川が流れる場所や産業との関わりを習います。それらを思い出すのにうってつけなのが「モルダウ」という管弦楽曲です。
モルダウは、中央ヨーロッパのチェコを南から北に流れる同国内で最も長い川です。同国のボヘミア地方の山中で生まれ、北はドイツを経て北海にぬけ、南はドナウ川にいたり、黒海に注ぎます。
「チェコ近代音楽の祖」と呼ばれるペドルジハ・スメタナ(1824~84年)は、自分の生まれた国をたたえ、紹介するために6曲から成る交響詩「わが祖国」を1872年から7年かけて作曲しました。どれもチェコの歴史・伝統・風景などを描いています。作曲者の祖国への愛情が強く感じられ、情景描写に優れた作品です。特に第2曲に当たる「モルダウ」は、音による絵とも呼べるほどわかりやすいのが特徴です。そのため、初心者向きの曲として、鑑賞教室などでもたびたび演奏されています。
交響詩とは、オーケストラで演奏する物語を持った曲の種類です。19世紀のロマン派、特に国民楽派の作曲家たちによって作曲されました。彼らは地理的に専門の音楽教育を受けにくい地域に住んでいたので、交響曲を書くのに必要なソナタ形式を習得できませんでした。そのため、自分たちの周囲にある伝統や風景を題材にしたのでした。
曲は①ボヘミアの水源地(フルートとクラリネットが二つの水源を示し、弦のピチカートがしずくを表す)②川の流れ(短調と長調を行き来する民謡風な曲)③森の中(狩りを表すホルンが活躍)④村の婚礼(弦と木管を主体とした踊り)⑤夜の沼(遅くなりハープが目立つ)⑥川の流れ(②と同じ)⑦聖ヨハネの急流(岩のある危険な場所、金管と打楽器が強奏)⑧プラハ市(首都に入り、長調となる。「わが祖国」第1曲の「高い城」の音楽が聞こえる)⑨海へ(楽器がどんどん減る)――の順で進み、私たちは流れに沿って旅をすることになります。
なお「モルダウ」はドイツ語読みなので、現地では「ヴルダヴァ」と発音しないとわかってもらえないでしょう。
青島広志(あおしま・ひろし)。1955年、東京生まれ。東京芸術大学、同大学院修士課程を首席で卒業、修了。「火の鳥」「11ぴきのネコ」などこれまでに200曲あまりを作曲。著書に『クラシックの時間ですよ!』など。東京芸術大学講師、洗足学園音楽大学客員教授。テレビ出演多数。イラストも筆者
外部リンク