振り返れば挫折ばっかり
あの男が、帰ってきた。高身長で高学歴、仕事はできるが偏屈で皮肉屋の建築家、桑野信介。「メリットがない」という理由で結婚はしない主義という。13年前に放送された人気ドラマ「結婚できない男」の主人公だ。
続編「まだ結婚できない男」が始まる。自身にとっても「代表作の一つになったし、桑野を演じたことで、自分の中で俳優として落ち着けた」と、思い入れの強い作品だ。
今でこそ俳優として大活躍しているが、中高生時代や俳優として歩み始めたころについて聞くと、「挫折」という言葉を多用した。
小学校までは、練習しなくても学年で一番足が速かった。中学校では陸上部に入部したが、次第に体の成長が早い同級生に抜かされるようになった。プライドがゆるさず、練習をさぼるように。
高校の部活は途中でやめ、勉強に切り替えて受験に向けて打ち込んだが、「勉強はできるほうではなくて、葛藤していました。中高は挫折ばっかり。自分がいやになっていました」。
大学生時代に雑誌モデルとしてデビュー。演技の仕事もするようになったが、「基礎も貪欲さもなかったからすぐ仕事がなくなって、また挫折した」と振り返る。
転機になったのは、劇作家つかこうへいさんの舞台に参加したこと。「演じる喜びを知って、演技の仕事をしていきたいと思った。30歳です、目標ややりたいことができたのは」。
舞台で得たことを映像作品の中で表現できたのが「結婚できない男」だったという。「桑野は僕も共感できる、本当は優しい男。ハッピーエンドになってほしいと思っていますよ」
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Q 脚本には、あまり細かい動きの指示がないそうですが……。
A うれしいですよ! 「桑野がパソコンを打って○○している」よりも、「桑野がいる」とだけ書かれていたほうが、僕に何かしろってことだなと。限られていないほうが、やりやすいんです。
1964年6月22日生まれ、神奈川県出身。主演作にドラマ「下町ロケット」、映画「のみとり侍」など。主演ドラマ「まだ結婚できない男」は関西テレビ・フジテレビ系で8日から放送。
(文・小貫友里、写真・関口達朗)
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