期待をこえる空間、時間、髪形を
黒川恵佑さん(32)
ater(大阪府藤井寺市)代表取締役
髪のカットやカラー、シャンプーなどをしてもらえる美容院。黒川さんは「髪を切るだけの場所ではない」と言い切ります。
「月に1回いらっしゃっても、年に12回しか来られない。だから特別な時間にしたいんです」。
aterは、3年前に弟の鉄平さん(30)と開いた店。白を基調にした内装やお客さんに出すオーガニックのハーブティーなど、空間全体で癒やされるよう心がけています。
「髪を切る時間が唯一の自分だけの時間、という主婦の方もいらっしゃる。楽しんで帰っていただけたら」
小学生の頃の黒川さんにとって、散髪は「母にしてもらうもの」でした。「耳の後ろがすっきりし過ぎな、ださい感じ」が嫌で、髪を切る時間はいつもおっくうでした。
中学校に上がるころに初めて美容院で髪を切り、感動したことが現在の仕事に就く上での原体験です。
髪形のリクエストを受けたら、髪の質や顔の形、洋服の感じなどを参考に提案します。
前髪は輪郭、おでこの長さ、頭の高さ、目と目の距離などを分析してカットするなど細かく計算されています。
時には、お客さんの希望をくんだ上で「こっちの方が似合うと思います」とはっきり伝えることもあります。
「最も大切なのは、ご本人はもちろん、まわりの人が『かわいいね』『かっこいいね』と思うようにすること。髪を切って家族や友達、同僚にほめられるとうれしいですよね」
仕事のやりがいは、お客さんと長年にわたる関係を築けることです。
「カットだけでも1時間ぐらい一緒にいられる。『気になる男性がいて、誘いたいのだけど……』という話を聞いたら、次にいらした時に『どうでした?』と聞いたり。その人の人生にちょっと関われるのがうれしいです」。
中学生だったお客さんが高校生になり、大学生になり、結婚して子どもが生まれて……と成長が見られるのも幸せだと感じています。
6月に藤井寺市内で2号店を開店させました。カットはせずに、髪をぬらさないドライヘッドスパや高濃度水素吸入などに特化した店です。
「これからも美容をテーマに、どうしたら喜んでもらえるかを考え続けていきたい」(中塚慧)
シゴトの極意
①笑顔
笑顔で目を見てあいさつすることが接客の基本
②身だしなみ
自らもおしゃれに敏感でないと説得力がない
③休みの日は外へ
映画を見たりドライブに出かけたり、気分転換は大事。お客さんとの話題も見つけられる
あゆみ
1987年、大阪府藤井寺市生まれ
■ 小学校時代
母のすすめで、小1から剣道を習う。地元の道場に週6日通う日々は「しんどかったけど、やめたらあかんと思って続けた」
■ さらに「剣道一色」な中学校時代
剣道は中3まで続け、剣道部にも所属。2段を取得した。「礼に始まり礼に終わる一対一のスポーツ。相手の気持ちを考えることは、お客さまに接する時に生かされています」
■ バンドではっちゃけた高校時代
大阪府立羽曳野高校(現・懐風館高校)へ進学。厳しかった剣道生活から一転、仲間とバンドを結成し、ギターとボーカルを担当。「髪も半分金髪、半分黒髪などいろいろやりました」
■ 専門学校時代
高津理容美容専門学校(大阪市)へ。卒業後、美容師の国家資格を取得
■ 2009年
大阪府に本社がある美容院BERAMiに就職。数年後、ニューヨーク・ニューヨーク(本社・京都市)に移る
■ 16年
地元・藤井寺市でaterを開店
ターニングポイント
初のおしゃれ髪に感動
小学生の終わりか中学生になったばかりのころ。初めて美容院で髪を切ってもらい、「めっちゃおしゃれになってる!」と感動しました。
それまで母に散髪してもらっていましたが、ださい髪形にされるのが嫌でした。おしゃれな髪形にして感動させる。自分もそんな仕事ができたら、と美容師に興味を持ちました。
これだけは!アイテム
ハサミは、髪形の土台をつくる直刃(左)や、くし刃がついたすきバサミ(セニング、右)など用途に分けて複数を使います。
後輩へメッセージ
夢持った自分に顔向けできる?
やりたいことのそばには、やりたくないこともあります。ちょっとしたしんどいことで、「もういいや」とあきらめるのはもったいない。挫折しそうな時は、夢を持った時の自分に顔向けできるか考えてみて。
外部リンク