お姫さまお菓子物語
ビクトリア女王(1819~1901年)
十九世紀、世界の七つの海を制覇していたのは、イギリスでした。この最も繁栄していたときに王位についていたのが、ビクトリア女王です。イギリスでは、「国を女性が治めるとき、繁栄する」といわれますが、ビクトリアは、その名前「ビクトリア(勝利)」通り、イギリスに栄光をもたらしたお姫さまです。
ビクトリアは、ジョージ三世の四男、ケント公エドワードとドイツ人の母との間に生まれました。ビクトリアが誕生したとき、占師が「この子はやがて女王になる」と予言したという話が残されています。
イギリスでは、王の子どもで最年長の男子が王位を継承するのが基本でしたが、男子がいない場合には、最年長の女子が王位を継承することになっていました。
エドワードの兄が次々に亡くなり、父のエドワードもすでに亡くなっていましたので、ビクトリアが王位継承者になります。
一八三七年、十八歳で即位。予言が実現します。四〇年には、いとこのアルバートと結婚。当時としてはめずらしい恋愛結婚でした。ビクトリアは、夫を心から愛し、夫もビクトリアをいつくしみ、公私にわたり彼女を支えました。九人の子どもにもめぐまれ、幸せな生活を送ります。
しかし、六一年、アルバートが亡くなると、ビクトリアは悲しみのどん底につきおとされてしまいます。悲しみは深く、それ以後は、黒衣を着て過ごしたといわれます。
すべてをイギリスにささげたビクトリアは、政治や経済の面だけではなく、ティータイムの導入など、文化面でも優れた才能を発揮しました。八十一歳で亡くなるまで国民に愛された女王さまでした。
☆ショートブレッド
ショートブレッドは、白っぽい、厚みのある軽い食感のクッキーで、スコットランド地方の伝統菓子です。この場合の「ショート」とは「短い」ではなく、「さっくりした」とか「軽い」とかいう意味です。
古くは結婚式にかかせないお菓子で、くだいてまく風習がありました。かけらを拾うと花嫁にあやかって結婚ができるといういい伝えがあったので、この「幸せのかけら」を拾い集めました。
ショートブレッドは、紅茶に合うお菓子です。イギリスは「紅茶の国」として有名ですが、「ティータイム(お茶の時間)」を王室から庶民にも広めたのは、ビクトリア女王でした。
当時、インドなどの植民地から、一番茶(ファーストフラッシュ)を女王さまにめしあがっていただこうと、帆船は競って本国イギリスをめざしました。
一方、国内では産業革命をむかえ、機械化のおかげで工業製品の大量生産ができるようになりましたが、労働者は同じ作業のくり返しで意欲を失っていました。
それを心配したビクトリア女王は、リフレッシュのためにお茶を楽しむ時間を取り入れるように提案します。ティータイムの習慣は、女王さまとの一体感を国民に生み出しました。
〈材 料〉
(15枚分)
薄力粉……250グラム
上新粉……150グラム
無塩バター……200グラム
グラニュー糖……60グラム
塩……1グラム
「上新粉」……主に菓子用に使われる米粉。うるち米を原料にした上質の粉のこと
〈作り方〉
① 無塩バターを室温にもどし、やわらかくする。
② ボウルに無塩バター、グラニュー糖、塩を入れて、泡立て器で白っぽく、ふんわりするまでよくまぜる。
③ 薄力粉と上新粉をふるいにかけ、②のボウルに入れ、ゴムべらでまぜる。
④ ③の生地を台の上に移し、手で厚さ1・5センチぐらいにのばす。四角に形を整えて、冷蔵庫で冷やし、かためる。
⑤ 冷えた生地をナイフで切り分け、生地の上からフォークでしっかり穴を開ける。
⑥ 160度に温めておいたオーブンで20分焼く。焼き色をつけずに、白っぽく焼くのがポイント。
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【監修】今田美奈子(いまだ・みなこ)洋菓子・食卓芸術研究家
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