お姫様のお菓子物語
マリー・レクチンスカ(1703~68年)
マリー・レクチンスカは一七〇三年、スタニスラス・レクチンスキーのむすめとして誕生します。父スタニスラスは、〇四年にポーランド王になりますが、後ろだてのスウェーデンがロシアに敗れてしまい、五年で王座を追われてしまいます。その後、フランスに亡命。むすめのマリーをルイ十五世の王妃にし、ロレーヌ地方を治めることになります。スタニスラスは美食王としても有名でした。
ルイ十五世のきさきになったマリー・レクチンスカは、夫より七歳も年上でした。結婚当初は、子どもにもめぐまれ、幸せに暮らしていましたが、若くて美しいルイ十五世は、ほかの女性に心をうつしてしまいます。ポンパドール侯爵夫人やデュ・バリー伯爵夫人との恋は有名です。
ルイ十五世の心がむすめから離れていくことを心配した父は、ルイ十五世の心をつなぎとめるために、おいしいものを次々にむすめの元へ届けました。その料理やお菓子をルイ十五世が少しでも気に入ると、マリー・レクチンスカは夫を喜ばせるために、山のように作らせたといわれます。
貝の形をした黄金色にかがやく「マドレーヌ」や、ボローバンという器の形のパイに料理をつめた「ブッシュ・ア・ラ・レーヌ」、そして、今でも人気が高い、お酒入りのシロップにひたしたイースト菓子「ババ(サバラン)」などは、父のむすめへの愛が生み出したお菓子です。
ルイ十五世に愛されたくて作らせたお菓子は、やがてヨーロッパ中に広がり、多くの人々に愛されるようになりました。夫を心から愛したマリー・レクチンスカは、六十五歳でこの世を去ります。
☆マドレーヌ
マドレーヌは、小さい貝の形をした焼き菓子で、フランスを代表するお菓子です。起源については、マリー・レクチンスカの父、スタニスラス・レクチンスキーに由来しているというお話が有力です。
パーティーの準備中に、宮廷の菓子職人がやめてしまい、かわりに若い召使のマドレーヌが即興で焼き菓子を作りました。
このお菓子をスタニスラス・レクチンスキーがとても気に入り、召使の少女の名をつけたともいわれます。
マドレーヌは、ベルサイユ宮殿に住むマリーにも届けられ、大評判になります。貝の形は、絵画「ビーナスの誕生」(ボッティチェリ作)にも見られるように、縁起がよい形と考えられていて、当時の文化や芸術の象徴でした。
貝がらのうずまきに似た曲線を装飾に使う「ロカイユ(ロココ)」様式は、ルイ十五世時代のフランスに始まり、ヨーロッパ中に広がります。
父からむすめに届けられた「ブッシュ・ア・ラ・レーヌ」「ババ」などとともに、マドレーヌは、時空をこえて生き続けているお菓子です。
〈材 料〉
(シェル型18個分)
薄力粉……150グラム
グラニュー糖……150グラム
卵……3個(約150グラム)
無塩バター……150グラム
バニラオイル……少々
バター……適量
※「四同割」……4つの材料(バター、砂糖、卵、小麦粉)を同量ずつ合わせること
〈作り方〉
① やわらかくしたバターをシェル型にはけでぬる。無塩バターは溶かしておく。
② ボウルに薄力粉とグラニュー糖を合わせて、ふるい器でふるい入れる。
③ 卵を入れて、泡立て器でゆっくりまぜる。
④ 全体がなじんだら、さらに力を入れ、よくまぜる。
⑤ 溶かしておいた無塩バターをゆっくり加え、さらにバニラオイルも加える。
⑥ 全体につやが出て、泡立て器の筋が残るぐらいまで、しっかりと生地をまぜる。まぜおえたら、生地を常温で1時間ねかせる。
⑦ シェル型に生地を9分目ぐらいまで入れ、165度に温めておいたオーブンで約20分焼く。焼きあがったら熱いうちに型からはずし、あみなどの上で冷ます。
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【監修】今田美奈子(いまだ・みなこ)洋菓子・食卓芸術研究家
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