今田美奈子のお姫さまお菓子物語「エカテリーナ2世(1729~96年)」
世界地図を広げると広大な国土を持つロシアが目にとまりますね。この国が歴史の表舞台に登場できたのは、十八世紀の女帝エカテリーナ二世のおかげでしょう。
エカテリーナは、一七二九年五月二日、ドイツのシュテッティン(現在はポーランド)の貴族のむすめとして生まれました。
小さいときからお姫さまになることを夢見ていた女の子は、四五年、十六歳のときにロシア帝国の皇太子ピョートルと結婚します。しかし、この結婚は愛のない生活でした。ピョートルは、おもちゃの軍隊で戦争ごっこをしているような人だったといわれています。
一方、頭がよくて、がまん強く、野心家でもあったエカテリーナは、ロシアの言葉や文化をすぐに身につけ、あっという間に国民の心をつかんでいきました。
六二年、夫はピョートル三世として即位すると、エカテリーナを皇后の座からおろそうとしました。
ちょうどそのころ、ロシアはプロイセン(今のドイツ)と戦争中でした。戦況は優位にたっていたのに、ピョートルは突然停戦し、プロイセンに有利になるようにことを運んでしまいます。この一件は、ロシア軍人や貴族の反感を買い、結果、クーデター(武力で政権をうばうこと)が起こり、ピョートルは退位。エカテリーナが女帝の座につくことになりました。
偉大な女帝として三十四年間君臨し、六十七歳で亡くなるまで理想の国づくりを目指しました。
サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館には、エカテリーナが集めた美術品が収められています。黄金時代を築いたエカテリーナ二世の偉大さを今に伝えています。
☆フレーズ・ア・ラ・ロマノフ
フランスのルイ十四世の時代や、ルイ十六世のきさきマリー・アントワネットにあこがれていたエカテリーナ二世は、フランスの食文化を好んでとり入れました。おいしい果物がとれるフランスには新鮮な果物を使ったデザートがたくさんありますから、このイチゴの美しいデザートはお気に入りだったにちがいありません。
フレーズ・ア・ラ・ロマノフは、イチゴクリームの原型といわれています。イチゴに生クリームをかけただけのように見えますが、実はイチゴをよりおいしくするためのひと工夫が……。イチゴをグラニュー糖とオレンジのしぼり汁、オレンジリキュールにひたして、冷蔵庫で少し休ませるだけで、よりおいしく変身するのです。豊かな香りをまとったかがやくようなイチゴのデザートは、ロマノフ王家の人々に代々愛されていきます。
〈材 料〉(4人分)
イチゴ……300グラム
グラニュー糖……大さじ1
オレンジのしぼり汁……1個分
オレンジリキュール……小さじ1
※ホイップクリーム
生クリーム……200グラム
グラニュー糖……大さじ1
〈作り方〉
① イチゴを洗い、ヘタを切り落とす。水気はふきとっておく。
② ボウルに、イチゴ、グラニュー糖、オレンジのしぼり汁、オレンジリキュールを入れ、軽くまぜあわせる。
③ ②をボウルのまま冷蔵庫に入れて、30分以上つけておく。
④ 別のボウルでホイップクリームを作る。生クリームを入れ、グラニュー糖を少しずつ加えながら、泡立て器でもったりと泡立てる。
⑤ 下の写真を参考にして、器にイチゴと、しぼり袋に入れたホイップクリームで盛りつけていく。
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●ワンポイント・レッスン●
ホイップクリームの作り方:生クリームを氷水で冷やしながら、泡立て器でボウルの底をこするように泡立てる。泡立て器ですくうと、ゆるやかに角が立ち、おじぎするぐらいの固さ(八分立て)になったらOK!
【監修】今田美奈子(いまだ・みなこ)洋菓子・食卓芸術研究家
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