東京・目黒区の小学校
2020年度からの新学習指導要領では、小学校中学年以上で授業時間数が増えます。増える分の時間を作るために各学校が頭をなやます中、東京都目黒区内の小学校が採り入れている「午前5時間制」が注目されています。授業時間数を確保できるだけでなく、集中力のある午前中の活用や、教員の働き方改革などにもつながっています。(編集委員・根本理香)
20年度から授業時間数増加
新学習指導要領では、3、4年生で外国語(英語)活動、5、6年生で外国語(英語)科が設けられるため、授業時間を年間35コマ(1コマ45分)増やす必要があります。
多くの学校の時間割では、午前中に4コマ行います。一方、目黒区の午前5時間制は40分1コマで、午前中に5コマ行うことが大きな特徴です。2002年度に区内の一つの小学校から始まり、今年度までに計9校に広がっています。17、18年度には文部科学省から調査研究を任されました。
目黒区教育委員会は「午前5時間制は授業時間数に余裕があるため、無理なく新学習指導要領に対応できる」と強調します。どうしてでしょうか。
1コマ45分を40分に
どこの学校でも、午後は行事や教員の研修などで授業がなくなることがよくあります。その場合、多くの学校では5、6時間目の2コマがなくなりますが、午前5時間制では6時間目の1コマですみます。さらに毎日の20分程度の時間を短時間学習として活用することで、授業時間数を生み出すことができるそうです。
集中力が高い午前中を学習に有効活用できるのはよいですが、登校時刻がかなり早くなるのではないかと心配になります。でも、昨年度から午前5時間制にした目黒区立中根小学校の場合、登校時刻は5分早まっただけ。また、給食の開始時刻は10分おそくなりましたが、てきぱきと準備をすることで、以前とほぼ同じ時間に食べ始められているそうです。中休みの20分はそのままです。
午前5時間制でも、1コマ45分で実施している他の自治体の学校では、登校時刻などを大きく変えたところもあるようですが、1コマ40分だと「無理なくできる」(目黒区教委)といいます。ただ、1コマ45分と授業の総時間数(分数)が同じになるように、換算しながら年間の指導計画を立てる必要があります。
「働き方改革」にも
午前5時間制では、下校時刻が30分ほど早くなり、放課後にゆとりができるというメリットもあります。子どもたちからは「塾や習いごとの前に好きなことができるようになった」との声が上がっています。教員にとっても、子どもと向き合える時間や授業準備などに使える時間が増え、「働き方改革」にもつながるそうです。
中根小の藤井良江校長は「子どもに負担なく授業時間数を確保することができて、午前5時間制の有効性を感じます」と話しています。
子どもの立場に立って考えて
授業時間数確保のため、各学校では午前5時間制の導入以外にも、夏休みを短くする▽土曜日に授業を実施する▽7時間目を設けるなど、さまざまな方法で対応しようとしています。教育課程論などにくわしい明星大学教育学部教授の吉冨芳正さんは「学校での時間も資源。無制限ではないから、上手に使うことが必要」といいます。
ただ、授業時間は確保しても、結果として子どもに学力がついていなければ意味がありません。給食時間や休み時間をけずれば、学習や生活のリズムをうまく作れなくなるおそれがあります。「子どもの視点から考えることが大事です」
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