長野県松本市にある信州大学医学部附属病院の小児科医・盛田大介さん(37歳)は自身も中学生のときに白血病となりました。医師を志したきっかけは、入院中に出会った女の子による詩。2人のエピソードは道徳の教科書にものることになりました。(八木みどり)
亡くなった女の子の詩がきっかけ
盛田さんは中学1年生のときに、急性リンパ性白血病という病気になりました。勉強や部活動など、それまでがんばっていたことができなくなり、「ふだんの生活がすべてうばわれてしまった」と感じたそうです。
そんなとき、盛田さんをはげましてくれたのが、当時小学生だった宮越由貴奈さん。宮越さんも神経芽細胞腫という重い病気でつらいはずなのに、「お兄ちゃん、元気出して。そのうちよくなるよ」と、明るく声をかけてくれたそうです。
「大人になった今、由貴奈さんがあらためてすごいと思うことはありますか」との質問に、盛田さんは「『あらためて』じゃないよ。ずーっとすごいと思っています」と答えてくれました。
「大人になっても、自分がつらいときには相手のことを助けたり、支えたりできなくなる」と盛田さん。宮越さんがしてくれたことが、どれほどすごいことだったのかをいつも感じているそうです。
盛田さんはその後、病気を克服し、高校にも合格することができました。しかしそのころ、宮越さんが亡くなったことを知り、宮越さんが書いた「命」という詩を読みました。
詩は、命を電池にたとえ、神様から与えられた命を最後まで生きようとする気持ちを表したものでした。詩を読んだ盛田さんは「由貴奈さんが詩に書いたように、精いっぱい生きてやろうじゃないか」と思ったそうです。
エピソードが道徳の教科書に
病気はつらいものでしたが、医師になった盛田さんはその経験も仕事に生かしています。たとえば、盛田さんがつらかったのは、勉強ができなくなってしまうことでした。そこで、空いた病室を高校生のための勉強部屋に改造。おしゃれな雰囲気にして、勉強が楽しくなるような工夫もこらしました。
今の目標は、治らないがんの子どもを、もっと減らしていくこと。新しい治療法を作ることをめざし、研究にも取り組んでいます。
病気になり、人生に一度は絶望した盛田さんですが、「どんなにつらいことがあっても、その先には必ず、それ以上の幸せがある」と断言します。「つらい経験があったからこそ、活躍できる未来があるから」
宮越さんの人生と詩については、『電池が切れるまで』(角川つばさ文庫ほか)という題名で本にもなっています。宮越さんと盛田さんのお話がのった道徳の教科書は、光文書院の小学4年生向けのもの。来年度から使われ始めます。
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