いつも見慣れた風景を、ちょっとちがった高さとスピードで経験する機会がありました。馬を育てている農家の友だちにさそわれて、自宅の近くを乗馬で散策したのです。
私は交通事故が原因で、両足が使えなくなってから20年以上、車いすで生活しています。立ち上がることができないので、車いすにすわった目線に慣れました。ですから、馬の背中から見える視界は、新鮮でした。信号も渋滞もない田舎の一本道は、いつもは車でさっと通り過ぎる場所です。馬のペースで歩いてみると、全くちがう場所にすら感じられるのが不思議でした。
道ばたに生えている草花のにおい、冬眠の支度をしている小動物たちの姿など、自然の中でゆっくり観察する時間になりました。
ちょうど肌寒くなる季節でしたが、馬から伝わる温かさが快適で、馬の体温が人間の体温よりも高いことを体感しました。なんとも言えないゆれが心地よかったです。
馬は、いやしのパートナーだと言い、いそがしいトレーニングの合間に自分をリセットするため乗馬しにいくというカナダのパラリンピアンに会ったことがありますが、その意味が理解できました。
みなさんもたまには、スローな生活をしてみてはいかがでしょうか。
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マセソン美季 東京都出身、カナダ在住。1998年のパラリンピック長野冬季大会のメダリスト。日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。
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