2019年度の中学入試がほぼ終わりました。今春は、どのような動きがみられたのでしょうか。首都圏と関西地区について、それぞれの専門家に話を聞きました。(編集委員・沢辺雅俊)
首都圏 算数1科目入試に注目
進学塾の栄光ゼミナールによると、首都圏(東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県)で私立中・国立中を受験したのは約4万9500人(速報値)。前年度とくらべて2千人ほど増えました。このエリアの6年生が9800人ほど増えたのが一番の理由で、受験率も16・7%から16・8%に上昇。受験者数、受験率ともに4年連続でアップしました。
背景にあるとみられるのが大学入試改革です。2020年度が第1弾、24年度が第2弾と2段階でおこなわれ、今春の受験生の場合、第2弾が実施される24年度に大学受験をむかえます。
教務企画課長の山中亨さんは「家庭の教育熱が高い一方、改革に対する不安もあるのでは。公立よりも一歩先取りした動きをとる私立が選ばれている」と話します。
算数による1科目だけの入試をとり入れる学校が増えたことも今春の特徴の一つです。男子校の世田谷学園中や巣鴨中、女子校の普連土学園中(どれも東京)などが、東京と神奈川の中学で入試がスタートする2月1日の午後に新たに実施しました。
世田谷学園中は395人が受験し、167人が合格(2・4倍)、巣鴨中は476人が受験し、173人が合格(2・8倍)、普連土学園中は274人が受験し、143人が合格(1・9倍)と人気を集めました。「学校側としては、計算力はみておきたい。また、文章題では読解力をはかることができる」と山中さん。1科目なので、そう大きな負担にはならず、はやめに合格を手にしたいと考える受験生のニーズにも合っているといいます。
埼玉・細田学園中や東京・ドルトン東京学園中等部をはじめ、この4月に開校する学校にも注目が集まりました。なかでも、公立中高一貫校のさいたま市立大宮国際中等教育学校の受検者は男子が437人、女子が559人という人気ぶり。それぞれ80人(計160人)が受かり、男子が5・5倍、女子が7・0倍でした。山中さんは「中学を『受ける』という新たな層がほり起こされたのでは」と考えます。
英語を活用する入試は私立中の4割がおこないました。ただし、英検準1級相当の試験を実施(千葉・市川中など)するところから英検5級以上で出願できる学校まで難易度に差があるのが実情です。
20年度から英語が5、6年生で「教科」になり、学ぶべき語彙などが明確になっていけば、「英語入試そのものも洗練されていくのでは」と、山中さんはみています。
関西 大学付属校人気 かわらず
日能研関西本部によると、関西地区(京都、大阪、滋賀、兵庫、奈良、和歌山の2府4県)の私立中を受験したのは1万7008人(入試開始日の午前入試)。前年度から約400人増えました。受験率は、わずかながらアップして9・5%でした。
地域別にみると、とくに兵庫県内にある私立中の受験者が320人あまり増加。大半が女子とみられます。進学情報室長の森永直樹さんは「共学校は人気を保ちつつ、女子校の人気ももどった」。女子校の場合、初日の受験者数をみると3教科(国語・算数・理科)でも受験できるようになった神戸海星女子学院中が32人、英語教育に力を入れる神戸国際中が30人、前年度より増えました。
前年度までと同じように今春も「関関同立」と呼ばれる大学の付属(系列)中の人気ぶりがめだちました。関西学院大学系や立命館大学系、同志社大学系の多くで受験者が増加。前年度、大幅に受験者が増えた関西大学系も堅調でした。特に京都・同志社女子中は初日の受験者数が前年度より71人増えました。
人気の背景にあるのは、首都圏と同様に大学入試改革の影響です。大学入試がかわっても系列大学に進めるという安心感や、英語の4技能(聞く・話す・読む・書く)の力を高めたり、アクティブ・ラーニングなどをとり入れたりするなど新時代の教育に力を入れている先進性が支持を集めているようです。
また、兵庫・松蔭中や大阪・梅花中、大阪・アサンプション国際中などが実施する英語をメインとする入試も認知度が高まりつつあるようです。習い事として英会話教室などで学んでいた生徒たちが受験したとみられます。
こうした動きをふまえ、森永さんは「今春の傾向が来春もつづくのではないか」と話しています。
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東海地区の場合、受験生が多い愛知県では、私立中(20校)の志願者数は1万2628人(速報値)。前年度より513人増加し、志願倍率は3・9倍でした(愛知県私学協会調べ)。
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